インフルエンザワクチンって本当に打った方がいい?

10月になると各医療機関でインフルエンザワクチン接種が始まります。

今年は新型コロナウイルスの流行があり、感染症の予防やワクチンについての関心が非常に高まっていると感じます。インフルエンザワクチンについての問い合わせが増えている状況も耳にします。

本記事では、インフルエンザワクチンについて、その効果?打った方がいい?誰が優先?コロナ禍でのワクチンはどうすべきか?などについて呼吸器内科医の視点で解説します。

まず先に結論。

  • インフルエンザにかかると要注意なのは、高齢者、持病を持っている人、10歳以下の子ども。
  • 最も優先してワクチンを打った方がいいのは、高齢者/持病を持っている人。
  • 高齢者とかかわりの多い医療や介護の従事者、子どもも打っておきたい。
  • その他の人は、ワクチンを打つ個人的なメリットは少ないかもしれない。
  • 多くの人がワクチンを打つことで、社会全体で流行しにくい状況を作りだすことができる。

インフルエンザとは?

インフルエンザはインフルエンザウイルスを原因とした感染症で、秋から始まり翌年の5月ごろまで流行します。毎年1000万人程度がかかっていると推定されている、身近な感染症です。

通常の風邪と比較すると、高熱や強い倦怠感、筋肉痛が出るのが特徴で、かかるとかなりしんどいです。なので単純に「症状がつらいから予防したい」という理由でワクチンを打っていいと思います。

しかしながら、インフルエンザにかかっても、ほとんどの人は発症してから数日以内に回復します。1日ほど早く熱がさがる治療薬もありますが、特に治療しなくても自然に治ります。そういう意味では、かかっても我慢するから予防しなくても良いじゃない?という意見もあるかもしれません。

でも、知っておいてもらいたいのは、インフルエンザにかかると命の危険がある人達がいるということです。

高齢者、基礎疾患のある人、10歳以下の子どもは要注意

10歳以下の小さな子どもではインフルエンザにかかったときに、けいれんや意識の障害などの症状が現れることがあり、インフルエンザ脳症と言われています。時には命を落としてしまうこともありますし、脳に後遺症を負ってしまうこともあります。

また、高齢者や基礎疾患のある人にとっては、インフルエンザは命の危険がある感染症といえます。基礎疾患のある人とは、慢性的な肺、心臓、腎臓、肝臓の疾患やがん、リウマチなどで免疫を抑える治療をしている人のことを指します。

呼吸器内科医として仕事をしていると、インフルエンザにかかった後に肺炎になって入院される高齢者はとても多いです。私が診療している範囲でも亡くなられる方が毎年何人かおられるので、日本で毎年多くの高齢者がインフルエンザで亡くなられていることは実感としてあります。特に持病を抱えている高齢者は注意が必要です。

「自分自身を守るため」にワクチンを打つのであれば、高齢者や持病を持っている人、10歳以下の子ども、は積極的にワクチンを打った方がいいと言えるでしょう。

インフルエンザワクチンは本当に予防効果はあるの?

65歳以上の高齢者において、ワクチンのインフルエンザ発症阻止効果は34~55%と報告されています。子どもでも、発症を60%程度減らす効果があるとされています。

でも裏を返すと、ワクチンを打っても、半分程度のインフルエンザは防げないということになるので、「打っても結構かかるじゃないか」というのは実はその通りです。

ちなみに私も毎年インフルエンザワクチンを打っていますが、3~4年に1回はインフルエンザにかかってしまいます・・・。

しかしながら、高齢者においてワクチン接種は、インフルエンザに関連した死亡を阻止する効果は82%であると報告されています。インフルエンザの発症は防げなかったとしても、ワクチンには重症化を防ぐ・肺炎になることを防ぐ効果があるからです。

ワクチンの効果は完璧ではないものの、十分に効果はあると考えられます。

ワクチンは周りの大切な人を守るために打つ。

私は医療従事者です。そして、勤務先の病院からはインフルエンザワクチンを打つように促され、私も納得して毎年必ずインフルエンザワクチンを打っています。

そしてそれは、自分自身を守るためではありません。(大きな声では言えませんが、インフルエンザにかかるしんどさよりも仕事がつらいことも多いので、仕事休めてラッキーと思ってしまうことがあります。)

私がインフルエンザにかかった場合、もちろん出勤停止する訳ですが、すごく軽症ですんだ場合は診断されずに病院で働きつづけてしまう可能性もゼロではありません。そうなると、担当している患者さんにうつしてしまう可能だってあります

病院に入院している人は病気で体が弱っています。インフルエンザにかかると亡くなる可能性は十分あります。実際に、インフルエンザの院内感染は毎年どこかの病院で発生していますし、亡くなる方も出ています。

そして、院内感染が発生すれば、一部の病棟、時には病院が閉鎖されていまい、地域の方々も困ることになってしまいます。

そのような事態が起きる可能性を少しでも減らすために、私は毎年インフルエンザワクチンを打っています。それでも数年に1回インフルエンザにかかってしまうのが悲しいところですが。

(※ちなみに私は体調悪いとすぐ休むポリシーなので、いまのところ院内感染は発生させていません。)

子どもへのワクチン接種もおすすめします。

子どもがインフルエンザにかかると、高熱がでてぐったりしてしまうので、親としては大丈夫か?とハラハラします。できるならば、ワクチンで予防してあげたいと思います。そして、まれではありますがインフルエンザ脳症を発症する可能性もあるので、なるべくそのリスクは減らすべきだと思います。

ちなみに日本ではインフルエンザ脳症は毎年100~200例程度発生しています。(国立感染症研究所)その中には後遺症が残ったり、残念ながら亡くなられる子どももいます。

子どもを守るためという理由だけでも十分に価値がありますが、実は、子どもにワクチンを打つと子どもを守る以上の効果があります。

子どもにワクチンを打つと、おじいちゃん・おばあちゃんが守られる。

実は、かつて日本ではインフルエンザワクチンを学校で集団接種していましたが、その有効性を疑問視する世論に押されてか、1987年に集団接種は取りやめになりました。

するとなぜか、肺炎やインフルエンザで亡くなる高齢者が増加しました。 実は、子どもへのインフルエンザワクチンは高齢者の肺炎を予防していた、という説が有力なのです。

(コロナ禍ではそうでもないかもしれませんが)子どもたちは、学校で密に集団生活をしています。ワクチンを打っている子どもがほとんどいない状況では、インフルエンザが流行するとあっという間にたくさんの子どもに感染して学級閉鎖になります。

そして感染した子どもが祖父母と同居していれば、祖父母にうつしてしまう可能性があります。結果的に、リスクが高い高齢者のインフルエンザや肺炎が増えるということになります。

子どもたちがワクチンを打つことで、学校での流行を少なくなり、リスクが高い高齢者をインフルエンザから守る効果があると考えられています。

高齢でもない、子どもでもない、持病もない人はワクチンを打つべきなのか?

最初に述べたように、高齢でもない、子どもでもない、持病もない人の大多数はインフルエンザにかかっても、数日で自然に回復します。なので、個人にとってはワクチンを打つメリットは大きくないと考えます。

しかし、ワクチンを打ってインフルエンザにかかることを予防することは、周りの人たちをインフルエンザから守ることにつながります。

たとえば、子どもや高齢者と同居している人は家族を感染から守るために、ワクチンを打つ意味があると思います。

また、会社でインフルエンザが流行してしまうと業務がストップして困ることもあるかもしれません。それを防ぐために、社員がインフルエンザワクチンを打つことを補助してくれるところもありますし、職場で集団接種することも多いでしょう。そういった機会があれば逃さずに打つようにしたいところです。

最近のインフルエンザワクチンの状況は?

学校での集団接種が取りやめになった、インフルエンザワクチンですが、その予防効果、特に高齢者の死亡を防ぐ効果が見直されるようになり、2001年からは65歳以上の高齢者に対するインフルエンザワクチンは定期接種(国が積極的に推奨)に指定されています。

その後、ワクチン接種する人は増えていき、最近では毎年2500万本程度のインフルエンザワクチンが消費されています。(ちなみに1本で2人接種できます。)自治体によっては、子どものワクチン接種を促すために助成制度があることもあります。この状況は好ましいと私は思います。

ちなみにワクチンを打てるのは0歳6か月からです。対象の方は是非お近くのクリニックなどに問い合わせてみてください。

コロナ禍でのインフルエンザやワクチンの状況はどうなる?

ソーシャルディスタンスやマスク着用の習慣などが定着しており、ワクチンを接種せずともインフルエンザは例年より流行しにくい状況にあると考えられます。

実際にコロナ禍がマスコミ等でも積極的に報道されたり、全国の学校が閉鎖されたりするようになった影響で、今年春のインフルエンザは例年と比較して激減しました。この秋も、例年と比較して患者数はいまのところ少ないようです。

一方で感染症を予防することについての意識は高くなっています。インフルエンザワクチンについて、多くの医療機関で問い合わせや予約が殺到している状況であると聞きます。

実はワクチンは、消費される量を予測して生産量が決められているので、国民全員が接種される量は生産されていません。厚生労働省によると今年のワクチン供給量は最大6300万人分とのことです。

厚生労働省もこの状況は把握しているようで、10月26日までの間は、ハイリスクの高齢者に優先してワクチンを接種するように通達を出しています。

とはいえ、例年よりも多くのワクチンが供給されることも事実ですから、焦って医療機関に殺到してしまわないようにお願いします。 予約ができる医療機関も多いので、ワクチン接種を希望される場合は余裕をもって問い合わせ・予約されることをおすすめします

ワクチンには自分を守る効果と他人を守る効果がある。

いかがだったでしょうか。

ワクチンには、打った個人を守る効果だけではなく、周りの人を感染から守る効果もあります。そして、ワクチンを打っている人が多ければ多いほど、その感染症は流行しにくい状況になり、多くの人が守られます。なので、なるべく多くの人にワクチンを打ってもらいたいと私は考えています。

ワクチンを打つ打たないの判断に安全かどうかもとても重要な要素だと私は考えています。今回は触れませんでしたが、インフルエンザワクチンについては経験が非常に蓄積されており、安全性は非常に高いということだけ添えておきます。詳しくは、こちらを参照ください。https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html

もちろん、ワクチンを打つ・打たないは個人個人の意思による自由であると日本では考えられていますし、私もそう考えています。だからこそ、正確な情報に基づいて、ワクチンを打つのか打たないかを判断してもらいたいと思っています。

この記事がみなさんの判断の参考になれば幸いです。

参考文献・サイトなど

国立感染症研究所:https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html

WHO:https://www.who.int/influenza/en/

厚生労働省 インフルエンザQ&A:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html

中山久仁子編(2019)「おとなのワクチン」南山堂.

Reichert, Thomas A., et al. “The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza.” New England Journal of Medicine 344.12 (2001): 889-896.