実はがんの2割は感染症が原因で、予防できる。

グラフは、日本人の、2000年~2018年の代表的な「がん」による死亡者数の推移を表しています。右が男性、左が女性です。(見えづらい画像で申し訳ないです。)

「がん」は基本的に高齢になればなるほど、発生する頻度が高くなります。そのため、高齢人口が増えている日本では、いまだに多くの種類の「がん」は増加傾向にあります。

そして、治療が進歩にもかかわらず、まだまだ「がん」による死亡者は増えていっているのが現状です。

その中で、2000年以降、死亡者が減少していっている「がん」が2つあります。

それは、「胃がん」「肝臓がん」です。(グラフでは「胃がんが青色」と「肝臓がんが黄色」の折れ線です。)

この2種類のがんに共通するのが、がん発生の原因のほとんどが感染症にあること、そして適切な感染症対策が行われていること、です。

感染症を原因とする「がん」は5種類ある。

現在判明している、感染症が原因となる「がん」とその病原体です。

  • 胃がん:ピロリ菌
  • 肝臓がん:B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス
  • 子宮頸がん、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、など:ヒトパピローマウイルス(HPV)
  • 上咽頭がん、悪性リンパ腫:EBウイルス
  • 成人T細胞白血病、リンパ腫:成人T細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)

この中で、感染症対策がうまく実施されていて、がんの予防に成功しているのが、「胃がん」と「肝臓がん」です。

下の2つ、EBウイルスとHTLV-1は、がんの原因となることは判っているものの、その治療(予防)が確立されていません。ただし、これら2つのウイルスによる「がん」は比較的まれです。

子宮頸がんなどのヒトパピローマウイルス(HPV)による「がん」は、ワクチンによる予防が確立されているにもかかわらず、適切に実施されていないために、現在も死亡者が増え続けている「がん」です。

子宮頸がんは25歳~49歳の比較的若い女性に発生する「がん」であり、仮に命が助かったとしても、子宮を失い、子どもを産むことができなくなってしまうという点で社会的に深刻な影響がある「がん」です。

繰り返しますが、HPV感染症の予防方法は確立されており、HPV関連のがんは予防することができるので、今すぐに取り組むべき課題と言えます。

胃がんの99%はピロリ菌が原因。

胃がんの99%はピロリ菌感染が原因であることがわかっています。逆にいうとピロリ菌に感染しなければ、ほぼ胃がんにはなりません。

以前はピロリ菌は井戸水などの生水から感染することが多かったのですが、上下水道の整備など衛生環境の改善により感染者は減少しています。

現在日本ではピロリ菌感染者の多くは高齢者ですが、家族から口を介してうつることもあり、若い方でも時々ピロリ菌感染者は見つかります。

ピロリ菌が慢性的に胃炎を起こすことで胃がん発生の原因となりますが、ピロリ菌を除菌することで、胃がんの発生をおよそ1/3にすることができます。

ピロリ菌に感染しているかどうかは、健診や人間ドックなどで検査することが可能です。また、胃カメラ検査でピロリ菌感染が疑われる所見があった場合には、保険適応でピロリ菌の検査をすることも可能です。

これまで調べたことがない方は一度、検査でチェックしていただき、ピロリ菌感染が判明した場合は除菌による治療をすることをおススメします。

肝臓がんの原因の多くは肝炎ウイルス。

肝臓がんの原因としてもっとも多いのはC型肝炎ウイルス、次いでB型肝炎ウイルスです。ウイルス感染による肝臓の慢性的な炎症が「がん」発生の原因になります。

C型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染します。以前は輸血を介して感染したり、針の使いまわし(刺青など)などで感染する人が多かったのですが、その危険性が分かってから、新しい感染者は減少傾向にあります。

また近年では、C型肝炎ウイルスの治療は劇的に進歩し、ウイルスを体から完全に排除させることが可能になっています。

B型肝炎ウイルスは、血液を介して、または性交渉で感染します。以前は母子感染(出産の際に母から子どもに感染する)が多かったのですが、現在は適切に対策しており母子感染はでほとんどありません。

そして、B型肝炎ウイルスはワクチンで予防が可能です。平成28年からはB型肝炎ワクチンが定期接種になり、0歳児に接種することになっているため、今後もB型肝炎ウイルス感染は減っていくと見込まれます。

このような、肝炎ウイルス対策により肝臓がんは減り続けています。

ただし、近年は脂肪肝を原因とする肝臓がんが注目されており、今後増えてくる可能性があります。

子宮頸がんはワクチンで予防できる。

胃がんと肝臓がんは、それぞれ感染症が原因になることが判明しており、適切に感染症対策がなされることで、発症を減らし、がんによる死亡を減らすことに成功しました。

しかしながら、日本では、原因が感染症であることが分かり、予防方法も確立できている、にもかかわらず、有効な対策がなされていない「がん」があります。

それは、子宮頸がんを代表とした、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染を原因とした「がん」です。

子宮頸がんは日本で年間約1万人が罹患し、約3000人が命を落としている「がん」です。そして、子宮頸がんは25歳から49歳の女性に多いがんであり、子どもを残して亡くなることが多いため、「マザーキラー」と言われます。とても悲しいことです。

子宮頸がんは、HPVV:ヒトパピローマウイルスワクチンを接種することによって予防ができます。

HPVV接種により、子宮頸がんはリスクを63%下げることできると報告されています。そして、接種する年齢は低い方が予防効果が高く、17歳までに接種した人は子宮頸がんを88%も予防できることが分かっています。

(実は)日本ではHPVVは定期接種に指定されており、小学校6年~高校1年の女性は無料で接種可能です。

かつて、日本ではHPVV接種後に、全身の痛みなどの症状を訴える方がおり、マスコミなどでセンセーショナルに報じられたことから、HPVVの接種が普及していない状態が続いています。しかし、その後の研究では、それらの症状が起きる頻度は少なく、ワクチンを打っていない方にも起きる症状であることが分かっています。

少なくとも、副反応よりも、「がん」を予防できるというメリットが大きく上回ることは確かであるため、多くの方が接種し、「がん」にかかる方を少しでも少なくしていくことが望ましいと思います。

予防できる「がん」はかなり多い。

もちろん、すべての「がん」が予防できる訳ではありませんが、確実に予防できる「がん」があることは分かっています。そして、その予防方法は、もちろん、特定の薬や健康食品やサプリメントではありません。

日本人の「がん」の原因のうち、男性の22.8%、女性の17.5%は感染症が原因であると報告されています。(ちなみに、男性のがんの29.7%、女性の5%は喫煙によるとされています。)

感染症が原因で発生する「がん」は、感染の予防、治療、ワクチン接種などの対策で、確実に減らすことができます。ついでに、禁煙もすればかなり多くの「がん」が避けられます。

是非みなさんには、正しい知識をもって、防げる「がん」を防いでもらいたいな思います。

引用文献/サイト

https://ganjoho.jp/

https://www.mhlw.go.jp/

https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/NAFLD_NASHGL2_re.pdf

https://minpapi.jp/

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